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雨の香り。

そこに在ればいい。

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2017/11/19(Sun)04:36

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夜の香り

2015/09/04(Fri)14:17

虫の鳴き声が静寂を深くしている
木々と土との境界が溶けていくと共に
それらの水分もまた 暗闇のものになってゆく

森に居らずとも森を感じている
深く息を吸い込む度 細胞の奥の思い出が 全身を巡り 私に辿り着いてくる
高揚と不安が風と共に過ぎて 
また 安息に返す
 
潜むものは 潜んだままで良いと 
夜は落ち着いてゆく
染み込むように しかし どこまでも遠く。  
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短編小説

2010/03/15(Mon)00:01

やっと冒頭が書けたので、冒頭だけでも上げてみます。


+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++


病室の窓は硬く閉ざされ、雨音を通さなかった。
白いベッドからよれた病衣を着た女が起き上がり、白いカーテンを開けると、初めて今日の天気が雨だったのだと知った。
女は窓に掌を当てぼんやりと遠くを眺め、熱を吸い取られたそれで頬を触れた後、溜息をついた。

「今朝からふっていたよ」

少年が病室に入りながら言った。
濡れた学生服からは滴が垂れており、扉の向こうでは看護士達が訝しげな目をしている。
少年はそのままベッドに腰を下ろし、シーツには大きな染みが滲んだ。

「傘を持ってでなかったのですか」

女は少し困ったような顔をし、彼の横に座って言った。

「政幸さんが持ってかなくてもいいって言ったから。天気予報では雨だと言っていたけれど、政幸さんの言うことを聞いたほうがいいかなと思って」

少年は体を倒してさらにベッドの染みを広げる。
女がいけませんよと言うと少年は謝らずに体を起こし、先ほど女がいた窓際に移動して床に腰を下ろす。幾らかの沈黙が流れた後、少年は女の目をまっすぐに見て、「小夜子さん、死んでしまうの?」と聞いた。 

小夜子と呼ばれた女は目線を逸らし再び窓の向こうを見つめた後、目を閉じ両手を顔に当てると、僅かに震えながら深く息をついた。少年は表情を変えずにそれを見つめていたが、小夜子が何も言い出さないので、立ち上がって先ほど彼女が見ていた窓の外を眺めたりして彼女が何か言い出すのを待った。眺めていると、玄関から出て行った夫婦のようである二人組の男女が、傘も指さずに泣きながら抱き合っているのが見えた。少年は何だか心地が悪くなり、カーテンを閉めた。小夜子はその音に驚いたのか一瞬肩を竦め、ゆっくりと顔を上げた。再び見詰め合った後、小夜子は口を開いた。

「ええ、もうすぐに」

そう言って少し微笑んで目を閉じた彼女がどこか幸せそうだったのを少年は疑問に思った。死ぬが嬉しいのかと聞くと、小夜子はそうではないと首を振る。艶の無い髪の毛が揺れ、何本か床に落ちた。汚れましたねと小夜子は言い、白いロッカーから箒を取り出した。汚れたというほどじゃないと少年が言ったが、聞こえていないように彼女はそれを掃いた。
「それならこの床も拭かないと」
少年はロッカーから雑巾を取り出し、床にできた小さな水溜りを拭く。小夜子は沈みそうな目でそれを見ていた。やがて綺麗に拭き終わると、立ったまま壁にもたれて何時頃死ぬのかと聞いたが、小夜子は今はまだと言うばかりで何も語らなかった。シーツを畳んだ彼女はベッドに座り、少年を膝の上に座るように言った。最初は断った少年も、そのうちに何も言わずその上に座った。

「幸一、乾くまでここに居なさい」

小夜子は少年を優しく抱きしめて言った。
幸一と呼ばれた少年は、体重を小夜子に預けながら、窓から見た男女を思い出していた。
男女は抱き合って泣いていた。さぞ悲しいことがあったのだろう。悲しいことがあれば泣くのは当然だと幸一は思った。あの光景を何故不快に感じたかは分からなかった。
幸一は小夜子の手に触れた。とても暖かく、近いうちに死ぬとは思えなかった。
涙が出ないことを、自分はもしかして悲しくないのかと不安に感じていたが、恐らく現実感が無いためだろうとして、考えるのをやめた。
看護士の女が夕飯を運んでくるまで、二人はそのままで過ごした。



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