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雨の香り。

そこに在ればいい。

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2024/04/24(Wed)19:20

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野焼

2013/02/27(Wed)21:46

暮れていく村に
佇む少女
収穫の終えた田畑は広がり どこか荒廃した空気を醸している
 
無邪気な笑い声が耳元を通り過ぎていく
蛙を突付いて遊ぶ子供達
少女は見ている
夕陽を身に受け 胸の内の蔑みを焼く
焦げた臭いのする
煙が
畑の隅でのぼって
風に乗り 消える
 
カラスが鳴いて 小さな影が橙色の上を滑っていく
雲の影に吸い込まれては現れ 何れ遥かに見えず
夕陽の向こうへ飛んでいく
 
視線を戻すと 子供達はもう居ない
残された蛙が 行き場を失ったように跳ねながら
虚しさを零すだけ
 
少女は 佇んだまま
焼け残った蔑みの燻りを
吐き出せずにいる 
 
蛙を突付かないくらいでは
何も守れない。
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No.48|Comment(0)Trackback

幻想(仮)

2010/11/19(Fri)01:59

花畑を見つけた
長く住んだこの町に とうとう私の居場所は無くなってしまったが
運河の如く 繚乱の花畑は敷き詰められていた
 
感動を抑えきれぬ私は
とにかく急いで家に帰った
言葉に詰まりながらも見たものを伝えたが
妻は私を叱るばかりで、そのうち子供のような泣き方をして、座り込んでしまう 
もう一度だけ伝える
ただ、乾いた風が吹くだけであった
 
鏡のような満月の夜
あの花畑のことを思い出した
今頃は、月明かりに照らされてとても綺麗だろう
私はまた、こっそりと抜け出した
 
澄んだ空気を味わいながら、酔ったように歩いているうち、私は見つけた
 
街を縫うようにして広がる花畑は 月明かりを受け 輝く海となり
風に吹かれ舞い上がる花弁は まるで煌く水しぶきのようであった
揺れる花々は波のよう 葉擦れの音は、静かに波打ち寄せる音を思わせた
 
私は花の海を泳いだ
一匹の魚になった様に 幾度も水面を跳ねた
何もかもが 吸い込まれていくような心地であった
 
月が陰る頃
波は引き 浜にたどり着いた
私は空を仰ぎ ひとつの花の香りもしないことに気づいて
凍えるように 震えていた。
 

No.47|Comment(0)Trackback()

短編小説

2010/03/15(Mon)00:01

やっと冒頭が書けたので、冒頭だけでも上げてみます。


+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++


病室の窓は硬く閉ざされ、雨音を通さなかった。
白いベッドからよれた病衣を着た女が起き上がり、白いカーテンを開けると、初めて今日の天気が雨だったのだと知った。
女は窓に掌を当てぼんやりと遠くを眺め、熱を吸い取られたそれで頬を触れた後、溜息をついた。

「今朝からふっていたよ」

少年が病室に入りながら言った。
濡れた学生服からは滴が垂れており、扉の向こうでは看護士達が訝しげな目をしている。
少年はそのままベッドに腰を下ろし、シーツには大きな染みが滲んだ。

「傘を持ってでなかったのですか」

女は少し困ったような顔をし、彼の横に座って言った。

「政幸さんが持ってかなくてもいいって言ったから。天気予報では雨だと言っていたけれど、政幸さんの言うことを聞いたほうがいいかなと思って」

少年は体を倒してさらにベッドの染みを広げる。
女がいけませんよと言うと少年は謝らずに体を起こし、先ほど女がいた窓際に移動して床に腰を下ろす。幾らかの沈黙が流れた後、少年は女の目をまっすぐに見て、「小夜子さん、死んでしまうの?」と聞いた。 

小夜子と呼ばれた女は目線を逸らし再び窓の向こうを見つめた後、目を閉じ両手を顔に当てると、僅かに震えながら深く息をついた。少年は表情を変えずにそれを見つめていたが、小夜子が何も言い出さないので、立ち上がって先ほど彼女が見ていた窓の外を眺めたりして彼女が何か言い出すのを待った。眺めていると、玄関から出て行った夫婦のようである二人組の男女が、傘も指さずに泣きながら抱き合っているのが見えた。少年は何だか心地が悪くなり、カーテンを閉めた。小夜子はその音に驚いたのか一瞬肩を竦め、ゆっくりと顔を上げた。再び見詰め合った後、小夜子は口を開いた。

「ええ、もうすぐに」

そう言って少し微笑んで目を閉じた彼女がどこか幸せそうだったのを少年は疑問に思った。死ぬが嬉しいのかと聞くと、小夜子はそうではないと首を振る。艶の無い髪の毛が揺れ、何本か床に落ちた。汚れましたねと小夜子は言い、白いロッカーから箒を取り出した。汚れたというほどじゃないと少年が言ったが、聞こえていないように彼女はそれを掃いた。
「それならこの床も拭かないと」
少年はロッカーから雑巾を取り出し、床にできた小さな水溜りを拭く。小夜子は沈みそうな目でそれを見ていた。やがて綺麗に拭き終わると、立ったまま壁にもたれて何時頃死ぬのかと聞いたが、小夜子は今はまだと言うばかりで何も語らなかった。シーツを畳んだ彼女はベッドに座り、少年を膝の上に座るように言った。最初は断った少年も、そのうちに何も言わずその上に座った。

「幸一、乾くまでここに居なさい」

小夜子は少年を優しく抱きしめて言った。
幸一と呼ばれた少年は、体重を小夜子に預けながら、窓から見た男女を思い出していた。
男女は抱き合って泣いていた。さぞ悲しいことがあったのだろう。悲しいことがあれば泣くのは当然だと幸一は思った。あの光景を何故不快に感じたかは分からなかった。
幸一は小夜子の手に触れた。とても暖かく、近いうちに死ぬとは思えなかった。
涙が出ないことを、自分はもしかして悲しくないのかと不安に感じていたが、恐らく現実感が無いためだろうとして、考えるのをやめた。
看護士の女が夕飯を運んでくるまで、二人はそのままで過ごした。



No.46|未選択Comment(0)Trackback()

亡き声。

2009/01/28(Wed)01:40

 
くすんだ白浜にある
潮風にさらされた廃屋
建てられたという事実を見失うほどに風化したそれを
皆 無いものとして通り過ぎていく 
故にここに生を置き 待つ

 

窓の向こうの海で波が打ち寄せる度
僅かに揺れる 重みを持った殻
触れられたとして 狭間の私は止めただろうか
 

泣けぬことが不安を灯し
色 鮮やかなうちは見えぬだけ と 
未だ 孤独を認められないでいる
 

友人がいた
彼は時折私を引掻き 酷く安心した顔を見せて
そのことを私に話しては
「とんでもないことをしてしまった」と言って泣いた
 

よく花を摘んできて見せてくれた
そのたびに酷く嬉しそうな顔をして
「また摘んでくる」と言って笑った
 

友人がいた
私の向こうの私を見つづけ
花だらけの部屋で首を吊って死んだ
 

また縄の軋む音が響く
彼は逢いに行ったのではなく
逢いに来たのだ と
小さく彼の名を呟けば
 

静寂の後
潮風が廃屋の肌を剥いだ
 

気づかぬほどに褪せていたのだと気づき
そっと 死体の目を閉ざすふりをして
ドアを開けずに部屋を出た
 

隔ての無い波音
風と共に通り過ぎる
郷愁のような切なさが胸に残る
 

足を差し出せば波音はまた静かに過ぎ
私は体温を錯覚してしまう
忘れていた感覚を思い出す されど
緩やかに それは私のもので無くなるのだろう
 

亡き声の水死
媒介を持たぬ者達は底で死に
意思の名残はやがて赤子の意思を産む
 

足が歩を止めた時
それが泣き声であると知った
私はもう消えてしまうというのに
不安は無く どこか穏やかな感情すら抱く
 

あぁ 遠くから 波紋だけが 近づいてくる
 

それが誰かも知らぬのに
薄れいく自我の中 見えぬ手を掴み
 

「おかえり」と泣いた。


 

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触れられぬ雪の。

2008/11/27(Thu)01:52

鼓動無き美しさ
厳冬を迎えた丘の崖際に立ち 目前に迎えるは
駸々と降る雪の中
凄みへと昇りゆく魂の数々
想い重ねてきたものを色として
各々が炎のように光り揺らめく姿が
燃える森を形作る

時を殺し得るほどの
息を飲む輝き
その前でさえ私は
何故涙を

・・・堪えているのか

あまりの寒さに凍え
頬を動かすことを忘れたせいか
自分が今 どのような表情をしているのかさえ分からない
涙がこぼれたなら
その熱で綻ぶだろうに

森に降る雪は溶けず
やがて遥か下で積もり
何時か森の土となる

未だ生きている視力も
一つ一つの魂の全てを見れるわけもなく

どこで  どれが
 消えゆいているのか分からない

私の目に映る
温度無き美しさの中に
悲しみが加わったのを感じる
私はその感情を息の中に湿らせ

白く吐いた


張り詰めた空気が僅かに緩む
ゆっくりと瞬けば 
息も緩みも見失った代わり
零れた涙


・・・まだ一緒に逝くには 少し辛い


それでも足はもう凍ってしまった
だから私は眠る 産まれつつある情念が
苦痛になる前に目を閉じる
有るかも分からぬ足を捨て
木々の根元
柔らかな土へ昇る



瞼の向こうで燃える森
その美しい業火から
血の流れる音が聞こえる。
 

No.38|Comment(3)Trackback()