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雨の香り。

そこに在ればいい。

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2024/05/09(Thu)03:31

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幻想(仮)

2010/11/19(Fri)01:59

花畑を見つけた
長く住んだこの町に とうとう私の居場所は無くなってしまったが
運河の如く 繚乱の花畑は敷き詰められていた
 
感動を抑えきれぬ私は
とにかく急いで家に帰った
言葉に詰まりながらも見たものを伝えたが
妻は私を叱るばかりで、そのうち子供のような泣き方をして、座り込んでしまう 
もう一度だけ伝える
ただ、乾いた風が吹くだけであった
 
鏡のような満月の夜
あの花畑のことを思い出した
今頃は、月明かりに照らされてとても綺麗だろう
私はまた、こっそりと抜け出した
 
澄んだ空気を味わいながら、酔ったように歩いているうち、私は見つけた
 
街を縫うようにして広がる花畑は 月明かりを受け 輝く海となり
風に吹かれ舞い上がる花弁は まるで煌く水しぶきのようであった
揺れる花々は波のよう 葉擦れの音は、静かに波打ち寄せる音を思わせた
 
私は花の海を泳いだ
一匹の魚になった様に 幾度も水面を跳ねた
何もかもが 吸い込まれていくような心地であった
 
月が陰る頃
波は引き 浜にたどり着いた
私は空を仰ぎ ひとつの花の香りもしないことに気づいて
凍えるように 震えていた。
 
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No.47|Comment(0)Trackback()

亡き声。

2009/01/28(Wed)01:40

 
くすんだ白浜にある
潮風にさらされた廃屋
建てられたという事実を見失うほどに風化したそれを
皆 無いものとして通り過ぎていく 
故にここに生を置き 待つ

 

窓の向こうの海で波が打ち寄せる度
僅かに揺れる 重みを持った殻
触れられたとして 狭間の私は止めただろうか
 

泣けぬことが不安を灯し
色 鮮やかなうちは見えぬだけ と 
未だ 孤独を認められないでいる
 

友人がいた
彼は時折私を引掻き 酷く安心した顔を見せて
そのことを私に話しては
「とんでもないことをしてしまった」と言って泣いた
 

よく花を摘んできて見せてくれた
そのたびに酷く嬉しそうな顔をして
「また摘んでくる」と言って笑った
 

友人がいた
私の向こうの私を見つづけ
花だらけの部屋で首を吊って死んだ
 

また縄の軋む音が響く
彼は逢いに行ったのではなく
逢いに来たのだ と
小さく彼の名を呟けば
 

静寂の後
潮風が廃屋の肌を剥いだ
 

気づかぬほどに褪せていたのだと気づき
そっと 死体の目を閉ざすふりをして
ドアを開けずに部屋を出た
 

隔ての無い波音
風と共に通り過ぎる
郷愁のような切なさが胸に残る
 

足を差し出せば波音はまた静かに過ぎ
私は体温を錯覚してしまう
忘れていた感覚を思い出す されど
緩やかに それは私のもので無くなるのだろう
 

亡き声の水死
媒介を持たぬ者達は底で死に
意思の名残はやがて赤子の意思を産む
 

足が歩を止めた時
それが泣き声であると知った
私はもう消えてしまうというのに
不安は無く どこか穏やかな感情すら抱く
 

あぁ 遠くから 波紋だけが 近づいてくる
 

それが誰かも知らぬのに
薄れいく自我の中 見えぬ手を掴み
 

「おかえり」と泣いた。


 

No.40|Comment(2)Trackback()

触れられぬ雪の。

2008/11/27(Thu)01:52

鼓動無き美しさ
厳冬を迎えた丘の崖際に立ち 目前に迎えるは
駸々と降る雪の中
凄みへと昇りゆく魂の数々
想い重ねてきたものを色として
各々が炎のように光り揺らめく姿が
燃える森を形作る

時を殺し得るほどの
息を飲む輝き
その前でさえ私は
何故涙を

・・・堪えているのか

あまりの寒さに凍え
頬を動かすことを忘れたせいか
自分が今 どのような表情をしているのかさえ分からない
涙がこぼれたなら
その熱で綻ぶだろうに

森に降る雪は溶けず
やがて遥か下で積もり
何時か森の土となる

未だ生きている視力も
一つ一つの魂の全てを見れるわけもなく

どこで  どれが
 消えゆいているのか分からない

私の目に映る
温度無き美しさの中に
悲しみが加わったのを感じる
私はその感情を息の中に湿らせ

白く吐いた


張り詰めた空気が僅かに緩む
ゆっくりと瞬けば 
息も緩みも見失った代わり
零れた涙


・・・まだ一緒に逝くには 少し辛い


それでも足はもう凍ってしまった
だから私は眠る 産まれつつある情念が
苦痛になる前に目を閉じる
有るかも分からぬ足を捨て
木々の根元
柔らかな土へ昇る



瞼の向こうで燃える森
その美しい業火から
血の流れる音が聞こえる。
 

No.38|Comment(3)Trackback()

火葬された思い出。

2008/09/23(Tue)20:43

夕暮れ時
ワイン漬けの私はふらふらとあても無く歩いていた
今朝 知人が死んでいたような記憶があるが
酔いの所為か はっきりと思い出せない

紅葉の絨毯の下
見え隠れする石畳の並木道を
躓きながら歩く
乾いていない喉を
無駄に潤そうと、瓶をかかげるも
ほとんど口に入らず
白いシャツは赤く染まってしまった

足取りも目線も定まらない
妙な形の月と思っていたら
躓いて掴んだ柱の上 背の高いただの外灯であった
小さく溜息をついた後 何か焦げた匂いに気が付く

私はまた ふらふらと歩き始める


そのうち 壊れた教会のある
広い焼け跡にでた


屋根は無く、外壁は崩れ、ただ風が吹いている
椅子の形の炭や
何であったかわからない木片
余りにも細い木になって残った
扉であったであろうというそれを見た


そして私は
何時からであろう その教会の中に居た


崩れていたはずの外壁は重厚に聳え立ち
姿の見えなかったステンドグラスが規律よく並ぶ
無いはずの天井の下
艶やかに光を放つ茶褐色の椅子達には
光無い人達が座り
皆 教壇に立つ、裸の子供を見つめている

その顔をもっと近くで見たいと
また ふらふらと歩きはじめ、

歩きはじめようと 足を踏み出した時

突然 何かが割れる音が
大きく響いた


降り注ぐ硝子片
ステンドグラスの一つが無くなっていた
割れた位置に近い椅子の彼等は
その体で雨を受け 血を流している
赤くなりながら 裸の子供を見つめている

私が足を進めるごとに
ステンドグラスは割れ
彼等は赤く染まっていく
誰とも目が合わないことが
私を現実に留めていた


あの紅葉に代わり
今は硝子屑が 床を彩る
私が子供の前に立つ頃には
全てのステンドグラスが無くなっていた



あぁ 少女であった
道化師の化粧をしていたようだが
剥げてしまっている
僅かに下を向き
虚ろな目を 遅いリズムで瞬いている

美しかった
私は彼女の美しさに恋をした

体の中の小さな炎が
服に染み込んだワインに引火して
やがて教会も包み込んだ
悲しいほどによく燃えた

私達はその場で式を挙げた
キスをし、
手を繋いだ
私達は抱き合った


私は泣いた


あぁ あぁ 死んだのは 彼女であると。

No.32|Comment(2)Trackback()

浜辺から想う。

2008/09/17(Wed)00:21

雲海の水平線は揺らめいている
重み無い砂浜の上で私は踊る
時折視界に入る 小さな穴が
私に重力を与えている
 

しなやかな腕の動きも
軽やかな足の動きも
それ故のもの
 

その動きと共に生まれる微かな音達
あぁ 今は彼等だけ
家族のように想いながら

 

重み無い砂浜の上で私は踊る
僅かにだけ残る足跡も
一瞬後に消えてしまう

 

私の右胸から零れた、あの小さな鈴は
もう地に着いたでしょうか
雨というものに濡れ
錆付いたりしたでしょうか


砕けてさえいなければ
きっと 美しい音を鳴らしたのでしょう



雲海の水平線は揺らめいている
潤った絶望を含んでいる
 
 

私は踊る
 
 

足踏みの音が鳴る
 
 

私は踊る
 
 

幸福な孤独に 包まれている。
 

No.29|Comment(4)Trackback()